AMSEA2018|日別聴講|B3-5,6|社会実践としてのアート「当事者の語りとスティグマ」|講師-熊谷晋一郎(当事者研究/東京大学先端科学技術研究センター准教授)

B3-5,6|社会実践としてのアート「当事者の語りとスティグマ」
日時 - 2018年11月13日(火)19:00〜21:00

概要 - 周囲からそれと気づかれにくい障害をもつ人々は、障害に関する自己理解や、周囲からの理解が不足しがちになるため、機会均等を保障するための合理的配慮を得にくい現状がある。また理解されにくい障害は、努力や意志の力で克服されうる状態であるという誤解にさらされやすいが、先行研究によると、ある文化圏において克服可能と信じられている属性は、その文化圏においてスティグマ(偏見や差別)が付与されやすいことが知られている (Corrigan et al., 2001)。
スティグマは、当該の属性を付与された人々の援助希求行動 (Schnyder er al., 2017) や社会参加、健康状態やウェルビーイングの重大な阻害因子になることがよく知られており、マイノリティ属性を持つ人々へのソーシャルワークにおける重要な介入ターゲットの一つとして注目されつつある。例えば依存症は、多くの文化圏において「意志の力で克服できる状態」と誤解され、深刻なスティグマが付与されやすい属性のひとつであるが、カナダの医療機関CAMHでは、当事者による一般市民へのプレゼンテーションと、アーティスト・当事者・一般市民が一緒になって「スティグマおよびそこからの集合的リカバリー」をテーマにした芸術作品を共同制作するワークショップを組み合わせた「contact-based learning」と呼ばれる介入プログラムを開発し、優れたスティグマ低減効果を報告している。
こうした背景の下、自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorders: ASD) という障害についても、正確な理解を通じてスティグマを低減するための介入を開発・検証する研究が試みられている (Gillespie-Lynch et al., 2015)。我々の研究グループにおいても、人の感覚から運動に至る認知プロセスを鏡のように映し出し観測可能にする情報処理技術「認知ミラーリング」を活用して、気づかれにくい障害のひとつであるASDを持つ人々が抱える困りごとを疑似体験させ、障害者の自己理解の促進、そして定型発達者がもつスティグマの低減等を目指す技術開発を進めている(長井ら, 2015)。
しかし先行研究では、シミュレーターを用いた擬似体験が共感や敬意を高める一方で、社会的距離を高めてしまうという報告が、統合失調症においてなされている (Ando, et al., 2011)。標語的に言い換えると、シミュレーターを用いた疑似体験は「大変さはわかったが近くには来ないでほしい」という社会的認知を周囲の人々に獲得させてしまう可能性があり、かえってスティグマを強化させてしまう結果を招きかねない。しかし、なぜ疑似体験単独ではスティグマ強化に繋がるのかは明らかにされていない。
一方、精神障害や薬物依存症に対するスティグマ低減効果を検討した一連の研究によれば、最も有効な介入法のひとつは、「異議申し立て」(protest)や「教育」(education)ではなく(Corrigan et al., 2001)、当事者の自伝的なナラティブに触れるcontact-based learningである (Martínez-Hidalg et al., 2017)。しかし、普段の日常診療で当事者の語りに触れ続けている医療者が、もっとも強いスティグマを保持しているグループであることも知られており、どのような参与枠組みで、どのような内容の語りに触れることがスティグマの低減に繋がるのかについても検討する必要がある。
当事者の語りや、アートを用いたanti-stigma interventionの試みを概観することで、表現活動とスティグマとの関係について共に考えてみたい。

講師 - 熊谷晋一郎(当事者研究/東京大学先端科学技術研究センター准教授)
東京大学先端科学技術研究センター准教授、小児科医。日本発達神経科学学会理事。新生児仮死の後遺症で、脳性マヒに。以後車いす生活となる。大学在学中は、全国障害学生支援センタースタッフとして、障害者の高等教育支援にかかわる。東京大学医学部医学科卒業後、千葉西病院小児科、埼玉医科大学小児心臓科での勤務、東京大学大学院医学系研究科博士課程での研究生活を経て、現職。専門は小児科学、当事者研究。主な著作に、「リハビリの夜」(医学書院, 2009年)、「発達障害当事者研究」(共著, 医学書院, 2008年)、「つながりの作法」(共著, NHK出版, 2010年)、「痛みの哲学」(共著, 青土社, 2013年)、「みんなの当事者研究」(編著, 金剛出版, 2017年)など。

-聴講-
定員|10名/1日・先着順
受講料| 無料
資格|18歳以上
場所| 東京大学本郷キャンパス内
※お申し込みいただくと、開催会場をメールにてお送りします。メールが届かない場合は、再度お申し込みください。
対象|アートマネジメント職を希望する学生、社会人、アーティスト、キュレーター、コーディネーター、学芸員、芸術研究者、フリーランスのアートマネージャー、芸術祭やアートイベントに関わる行政・企業の担当者、アートスペースやアーティスト・イン・レジデンスの企画・運営に興味のある方、アートに関わる広報・PR担当者 など。

申し込み方法|下記聴講申し込みフォームから必要事項を記入の上、送信ください。
※お申し込みいただいた方は必ず講義にお越しください。やむおえず欠席なさる場合はメールにてご一報いただきますよう、お願い申しあげます。
amseaut@gmail.com

聴講申し込みフォーム|https://goo.gl/forms/QcEwJaxFhRG5IQYv1